晩秋の甲子園。
一年間応援を続けた多くのファンが詰めかけたファン感謝祭にて、来年2017年の阪神タイガースのチームスローガンが発表された。
スローガンは「挑む Tigers Change」
自分たちは挑戦者なんだと改めて宣言したことになるこのスローガン。
これに込められた思いと、来年に向けた補強の動き、2017年の優勝の可能性を考えてみたいと思う。
機能しなかった主力
2016年は計算外のことが多く起こった。
中でも一番大きかった出来事が、主力選手のパフォーマンスが悪かったことだ。
これまで阪神タイガースの屋台骨を支えてきたベテラン勢と主力選手が軒並み昨年度までの力を発揮できなかった。
投手陣では真のエースとして4年目のシーズンを迎えた藤浪晋太郎が7勝11敗、防御率3.25と奮わなかった。
一年間のローテーションを守ってフル稼働すると思われた岩田稔もまた、期待に応えられなかった。
シーズン序盤に6試合登板したが、成績は0勝3敗の防御率8.85で、シーズンの大半をケガのリハビリに費やし、一軍に再び上がることはなかった。
能見篤史もローテーションを守りこそしたが、8勝12敗と4つの借金を作り勝ち越すことはできなかった。
そして、最後に藤川球児だ。
日本プロ野球に復帰した年となり、かつての抑えではなく、先発投手としてシーズンに入ったが思うような結果は出せず。
抑えをしたり、中継ぎをしたりとたらい回しになった。
投手陣の主軸で活躍したのはメッセンジャーだけと言ってもいいほどだが、そのメッセも12勝11敗と貯金はわずかに1つだけだった。
これでは優勝は程遠いと言うしかない。
野手陣に目を向ける。
なんと言っても鳥谷の大スランプは深刻だった。
ただの選手がスランプに陥るのとは訳が違うところも、今年のタイガースを悩ませた。
言わずもがな鳥谷が継続していた連続フルイニング出場という記録のせいだ。
ストップさせるか、継続させるか、シーズン中盤はそこばかりにフォーカスが集まり、首脳陣を始め、チーム全体に暗雲が立ち込めまくっていた。
若手を台頭させて、多くの選手を起用した金本監督だったが、鳥谷のスタメンだけは辛抱強く継続を貫いた。
それでも待ち続けても鳥谷の成績は上がらず、状態は悪くなるばかりで、ようやくスタメンから鳥谷の名前を外したのが7月24日で、シーズンは折り返して後半戦へと突入していた。
他にも野手陣で名前を上げるとすれば西岡だろう。
ガッツ溢れるプレーとチームの雰囲気を明るくするムードメーカーだが、近年はケガが多く、今年もシーズン序盤にアキレス腱を断裂して戦力とならなかった。
助っ人外国人のゴメスも、成績が芳しくなかった野手の一人だ。
四番としての活躍を期待されたが、チャンスで凡打を重ねるシーンが目立った。
スタメンを外されてからは、再起をかけて奮闘する姿も見られず、チームトップのホームラン数を誇りながらも、11月半ばにチームは契約を打ち切った。
何がおかしかったのか。
金本監督自身も、このチームの主力の大ブレーキの原因を解明できないでいる。
個人個人が成績を落とし、それがチームに波及して、さらなるスランプに陥っていった。
そんなところだろうか。
超変革というスローガンの元にスタートした2016年の阪神タイガースは、その悪い部分を露呈して、そこからどう作り上げていくかを浮き彫りにした年だった。
でも、悪いことばかりではない。
良い部分もあった。
それは将来チームの核となれる若手の台頭だ。
台頭する若手選手
ゴールデンルーキーという言葉は、この男には必要ないのかもしれない。
打席での落ち着きは、もはやルーキーのそれではなかった。
開幕前にはケガのためにキャンプの大半を二軍で調整したが、開幕とともにチームになくてはならない存在になっていた。
一年目の高山は、間違いなくホンモノだった。
ペナントレースの一年をフルに戦ったのは初めてという事が嘘のように、高山は調子に波がなかった。
まったく無かったわけではないが、少なかった。
結局、98年に坪井が記録した阪神タイガースの新人安打記録を塗り替える136安打を放ってみせた。
そして何よりも特筆すべきは打点の多さだ。
打線の上位で起用されることが多かったが、65打点もの数字を残した。
得点圏打率.377という数字が物語るようにチャンスにめっぽう強く、その数字以上に印象に残る技ありの一打が、ファンの心を掴んでいった。
次に台頭したのが原口だ。
シンデレラストーリーも相まって、月間MVP、さらには監督推薦ながらオールスターにも出場した。
打率.299に本塁打11本というキャリアハイの数字は、とても開幕前に育成選手だったとは思えない活躍だ。
本職のキャッチャーを飛び出し、打力を買われてファーストの守備も務めた。
来季も二足のわらじでチームの勝利に貢献するバッティングを見せてくれるだろう。
そして、鳥谷の遊撃という聖域に割って入ったのが、4年目の北條だ。
今季プロ第一号を放つと、代打での登場から、徐々にサードでスタメンを獲得すると、鳥谷の不振も手伝ってシーズン終盤にはショートのスタメンを任されるようになった。
自己最多となる122試合に出場し、打率.273、5本塁打、33打点という成績を残した。
まだまだ経験不足から来る荒さは目立つものの、間違いなく鳥谷からのバトンはうまく受け継がれると予想できる。
次に投手陣に目を向けてみる。
藤浪、能見、藤川、岩田というローテーションの柱の不調は、新しい投手に登板のチャンスを与えるという結果になり、その中で見事にローテーション入りを果たしたのが岩貞だ。
シーズン序盤はどうやったら失点するのか教えてほしいぐらいの快投を展開、そのまま一年間ローテーションの柱となり、25試合に登板して10勝9敗、防御率2.90と二ケタ勝利をマークした。
また数字的には岩貞に劣るものの、ルーキーながら4勝を上げた青柳も、来年は更なる飛躍を見せてくれるのではないかという希望を感じさせてくれた。
確実に育ちつつある「金本チルドレン」と、復活に燃えるベテラン勢、福留、メッセンジャーなどの実績十分な主力が今年のポテンシャルを発揮してくれれば、Aクラスは手堅いだろう。
そんな今年のタイガースから、来季を占う上で避けて通れないのが、戦力の見直しだ。
オフに入るや否や、かなりの数の選手が契約解除となり、そして新たな戦力がタイガースに加わった。
オフに断行された解雇と補強
10月1日の交渉解禁日には9名と契約を解除し、さらに末に1人が退団した。
かつてのドラフト1位入団である二神などを始めとした中堅の選手がチームを去った。
そして何よりも驚きなのが助っ人外国人の去就だった。
戦力として活躍する機会を目にするのが少なかったペレスを始め、機能しなかったヘイグ、シーズン途中に火急入団させたサターホワイト、ケガが付きまとったドリス。
そして極めつけは3年間で65本のアーチを描き続けたゴメスまでも契約を解除した。
残った助っ人外国人はメッセンジャーとマテオの投手2人だけとなった。
ここまではチームを去ることになった選手を見てきた。
続いて、新たに阪神タイガースに加入した選手を見ていこう。
まずはドラフト入団選手だ。
好投手が山のようにいた今回のドラフトにおいて、金本タイガースは1位指名に大学日本代表の4番を務めた大山を指名した。
「今年一番ボールを遠くに飛ばすのは?」
指名前に金本監督がスカウトに尋ねた言葉だ。
実にシンプルで、それでいて、なんとスカウト泣かせの難しい質問か。
素人の僕はそんな印象を受けた。
でも、そこはやはりプロ。
スカウトからの返答は早かった。
「大山」
「2巡目で獲れる?」
「おそらく指名されるかと」
「わかった。それなら」
監督の気持ちが固まるのも、また、早かった。
ドラフト1位でアマNo.1打者を獲得した。
それはちょうど高山の大当たりを実感したからこその行為で、なおかつセ・リーグワーストとも言うべき打撃力の低さをカバーするための当然の補強とも言える。
なぜ今年に限って1位指名が野手なのだ、との周囲の声も、チーム事情と、助っ人外国人の陣容を見れば納得できる。
メッセンジャー、マテオ、そして新たに獲得したローマン・メンデス。
一方の野手陣は0。
0なのだ。
サードの外国人候補として契約間近と言われているエリック・キャンベルも、まだ合意には至っていない。
至ったとしても、これで外国人の補強はひとまず打ちきりになると見られる。
新しい野手の戦力補強を最小限にとどめたことは、きっと、今年我慢して起用した若手野手の成長に手応えを感じたからなのかもしれない。
投手力はなんとかなる。
現状のチームに足りないものを補う。
それが補強だ。
そしてそんなチームにとって、最後にして最大のピースが埋まることになった。
糸井嘉男の加入。
足りなかった足、打力、守備力、経験。
それをひとりで補うことができる選手の獲得に成功した。
来年必ずしも糸井が活躍するという保証は、もしかすると無いのかもしれない。
だが、球団は、そして金本監督は、打てる手は打った。
さぁ、あとは挑むのみ。
そう、挑むのみなのだ。
そんな気持ちを、シンプルにスローガンにした。
スローガン「挑む」
ファン感謝祭にて発表されたスローガン。
それは昨年同様、金本監督自らの口で語られることになった。
ただひとつ昨年と違ったこと。
それは……。
「挑むという言葉は常に強い相手に立ち向かっていこう、怖がらずにチャレンジしていこう、トライしていこうという意味があります。来年、このスローガンを胸に優勝を目指して頑張っていきたいと思います」
それは、“優勝” という二文字を口にしたことだった。
始めて具体的な言葉が指揮官から語られた。
挑む、挑戦する、そしてその繰り返しの先に優勝という栄光がある。
こんなに端的なことはない。
それが難しいのもまた事実なのだが。
今年一年を振り返ってみて、感じた手応えがあったからこそ、優勝というワードが口から出た。
金本監督のコメントを続ける。
「Bクラスなんだから、自分たちは弱いんだという自覚を持ってね。別に怖がるものはないし、守るものはないんだから。補強にこだわりすぎないとか、しっかり練習する、鍛えるとか。変えていかないと勝てないし、良くはならない」
もしかすると他球団では当たり前のことなのかもしれない。
世代交代、結果主義。
その辺が近年のタイガースには欠けていた。
そんな悪しき風習や慣例を、金本監督は「超変革」という言葉を用いて断行した。
勇気のいる行動だったろう。
山のように批判も浴びせられた。
それでも2016年のシーズンを戦い抜いた。
さぁ、挑もう。
阪神タイガースの新たな戦いは、もう始まっている。