阪神タイガースが強くなるには?2016年シーズンのまとめ

超変革という刺激的な言葉に踊らされた。

そんな1年だったように思う。

就任してから、たしかに金本監督は我々ファンに夢を与えてくれた。

連日のように若手が紙面を賑わせたキャンプ。

そして、再起を掛けた能見、鳥谷、藤川などの優勝を知るメンバーの良い状態が報道された紅白戦。

期待された新外国人。

次々と新しいヒーローが飛び出したオープン戦。

我々ファンがどこか浮かれていたのは、井の中の蛙大海を知らずといった状態だったのかもしれない。

開幕してから間もなく、「超変革」という刺激的な言葉は「今はまだだけど」という前置詞が付くようになった。

「就任一年目だから仕方がない」

そんな言葉が聞かれるようになった。

だが、それはただの負け惜しみにしか聞こえない。

クライマックスシリーズ進出を決めた巨人の高橋監督も横浜のラミレス監督も、就任一年目だ。

「阪神と違って、現有戦力が良かったからだ」

次にそんな言い訳が聞こえてきそうだが、それも負け惜しみだろう。

巨人は昨年の順位は阪神より上だったが、横浜は下だった。

もっと言うとぶっちぎりで優勝した広島も阪神より去年は下位にいた。

「弱い戦力で戦い抜いた和田監督が名将だったんだ」

もう、手を叩いて賛辞を送りたくなるほどの、そんな負け惜しみまで聞こえてくる始末だ。

それを論じて何になるというのだろうか。

和田監督はたしかに頑張ってはいたが、そんな事を引き出しの奥から引っ張り出して今後の役に立つのだろうか。

あの時代は良かったと懐かしむのは、ファンとして喜ばしいことだし、否定するつもりもないが、それにすがり、回帰するのだけは良くないと思う。

「優勝できるように補強すべき!」

それは多いに結構だ。

これまで阪神タイガースは球団の体質から、「生え抜き→育成→スタメン」というプランを長らく放棄してきた。

補強に頼るチーム運営をおこなってきた。

だが、それではこれまでの繰り返しになる。

チームの根幹であるべきの生え抜き選手がスタメンからいなくなる。

では、今後、阪神タイガースはどういう道を歩めばいいのか?

今年の戦いを振り返りながら、理想の将来像を追い掛けてみる。

生え抜きが顔を揃えた暗黒時代

1987年から2002年までの期間、ファンの間ではこの期間を暗黒時代と呼んでいる。

それは毎年のようにBクラスを定位置にしていたチーム状況からそう呼ばれているのだが、成績を振り替えると、なるほどうなずける。

暗黒時代の16シーズンは、最下位10回、5位が2回、4位3回、2位1回というひどい成績だ。

しかし、その時代、阪神には生え抜き野手のスタメンが多くいた。

そして、その選手達がチームの中心だった。

亀山、久慈、和田、新庄、桧山、八木、平田、木戸、岡田などの野手。

湯舟、藪、仲田、中込、弓長、葛西、猪俣、川尻、井川などの投手。

往年の選手達がスタメンに名前を連ねた。

それでもチームは弱かった。

これでもかというほど、負けていた。

空席しか目立たない甲子園球場を何度も見てきた。

育成によるチーム作りに無理が生じてきた。

誰もがそう信じて疑わなかった。

当時から球界をリードしてきた巨人が毎年のようにビッグネームの補強を繰り返していた。

落合、清原、広沢、江藤、タフィ・ローズ。

各球団の4番を集めてセ・リーグを席巻していた。

そして、阪神も暗黒時代をなんとか抜け出そうと、たどり着いた結論が「マネーゲームによる補強」だった。

毎年のようにビッグネームを補強で獲得するようになり、補強に補強を重ねるようになった。

外野が弱い!

そうなるとすぐに外野手を金で獲得した。

捕手が欲しい!

すぐに育成を放棄して、メジャー帰りの選手を獲得した。

そうやって、ようやく育ちそうな土壌の上に金で買ったまったく異種の土をぶちまけて、甲子園の上に出た芽を「戦力だ」と呼んで優勝争いのステージに返り咲いた。

そして、運命の監督が阪神タイガースに就任し、チームの道は固められた。

驚異的な血の入れ換えを断行した星野仙一監督が、長年の負の歴史に終止符を打ったのが2003年。

もしかするとタイガースは、そこで未来が明るい方向に行くものだと信じ、本当に球団運営にとって大切な要素を見逃していたのかもしれない。

ファンも球団も、両方がそう信じたのかもしれない。

それでも2003年の優勝メンバーには、生え抜き選手が多く在籍していた。

赤星、今岡、桧山、藤本。

そこに補強した金本、矢野、アリアス。

しかし、年々補強の割合は加速していく。

補強でツギハギだらけとなったチームに綻びが生じるのは時間の問題だった。

そして、いつしか、スタメン野手からは生え抜きがいなくなった。

助っ人外国人と、FAなどの補強で獲得した選手ばかりになった。

グラウンドを見渡すと、「ショート鳥谷」以外の選手は、みなが外様ばかりとなっていた。

そしてキャリアのピークを過ぎたビッグネームの獲得を続けた結果、阪神打線から活気がなくなった。

狂った歯車を元に戻す術も、歩みを変える勇気も決断も、阪神球団に生まれることはなく、優勝できないという「時間」だけが過ぎていった。

ファンは嘆き続け、球団は補強を繰り返した。

何を目指すべきなのか。

その答えは明白だった。

それは言うまでもなく、「育成による生え抜き選手を中心としたチーム構成」だった。

他球団と比較するスタメン野手

補強や助っ人外国人の割合は、8人の野手の中で、多くても3人ぐらいが理想だ。

セ・リーグの他球団のスタメンを比較にしてみるとわかりやすい。

まずは、今年優勝した広島カープ。

1(遊) 田中 広輔

2(二) 菊池 涼介

3(中) 丸 佳浩

4(一) 新井 貴浩

5(右) 鈴木 誠也

6(左) 松山 竜平

7(三) 安部 友裕

8(捕) 石原 慶幸

4番の新井は一度阪神に在籍していたことを考えたとしても、スタメンの8人全員が生え抜き選手だ。

これはかなり異例といえる。

資金力のない広島カープならではの布陣とも言えるが、これでも優勝できる力があるというのは、育成の賜物以外、何者でもない。

次に巨人を見てみよう。

1(中) 長野 久義

2(右) 亀井 善行

3(遊) 坂本 勇人

4(一) 阿部 慎之助

5(三) 村田 修一

6(左) ギャレット

7(二) 辻 東倫

8(捕) 小林 誠司

移籍選手は村田、助っ人外国人はギャレットと2人で、あとは全員生え抜き選手だ。

90年代にマネーゲームを推進していた巨人でさえ、今はこんな理想的な状態になっている。

生え抜き選手がチームの中心となって、移籍選手と助っ人外国人が打線に潤いを与えている。

次に今年大躍進を遂げた横浜のスタメンを見てみよう。

1(中) 桑原 将志

2(右) 梶谷 隆幸

3(一) ロペス

4(左) 筒香 嘉智

5(二) 宮﨑 敏郎

6(遊) 倉本 寿彦

7(三) 白崎 浩之

8(捕) 戸柱 恭孝

助っ人はロペスだけで、あとは生え抜き選手が名前を連ねている。

こちらも理想的な打線と言える。

育成が上手く進んでいて、梶谷、筒香がチームの中心選手として大活躍している。

長くなるので、Bクラスのチームであるヤクルト、中日は割愛する。

最後に阪神タイガースの直近の打線を見てみよう。

1(遊) 北條 史也

2(二) 上本 博紀

3(左) 髙山 俊

4(右) 福留 孝介

5(一) ゴメス

6(三) 鳥谷 敬

7(中) 俊介

8(捕) 梅野 隆太郎

ご覧いただいて分かるように、理想的な人数構成になっている。

移籍選手の福留と、助っ人外国人のゴメス以外は生え抜き選手が名前を連ねている。

しかし、上位3チームと違う所は、生え抜き選手がチームの中心として活躍できていないところだ。

悲しいことに、この6人の中で、今年1年間を通して活躍した選手は高山以外にいない。

忘れがちだが、高山はルーキーだ。

ルーキーがチームの中心となってシーズンを戦うようなチームでどうする。

ルーキー「も」活躍してくれた!にならなければいけない。

それでも、悲観的なことばかりではない。

北條や原口などの新たなスター候補が芽を出しそうな1年となったことは喜ばしい。

彼らの成長を止めずに加速させながら、また新しい選手が登場する土壌を作っていって欲しい。

金本監督が目指す野球は、今年1年間を見ただけでは結果が伴わなかったのは事実だ。

なんとか最下位を免れようと必死にもがいている現状を、決して「就任1年目」だからと軽視してはいけない。

受け入れて、その上で積み上げなくてはいけない。

シーズン終盤の今、補強、補強と何かと話題になってきた。

阪神タイガースねっとでも、補強情報を随時掲載していって、補強を全面的に肯定しているような印象を、読者の皆様に与えてしまっているかもしれない。

しかし、僕は声を大にして言いたい。

育成して生え抜き選手をスタメンに起用することを大事にして欲しい。

もちろん、優勝するには補強も大事だ。

それは間違いない。

でも、やり過ぎて欲しくない。

今のバランスのまま、適材適所に補強を施すようなチーム運営になることを望んでいる。

生え抜き野手がグラウンドで躍動する。

そうやって、戦い抜いた末の優勝を見たい。

勝負の2年目。

金本監督が我々に何を見せてくれるのか。

今度の記事では金本采配について、振り返りたいと思う。